ミネラルの戯言

ツイートするにはちょっと長い話を綴ります

下書きにあった友香ちゃんとのお話


差し込む朝日が影を作っていて確か真っ黒な君の髪がほんのり茶色に染まって見えた。


この日の朝練はいつもよりも早く終わった。
別に希な話じゃない。ウチはたまーに気分で早く終わる事もある適当な部だし、そういう時は汗臭い部室で駄弁ったりして1時間目ギリギリで教室へ駆け込む事も少なくないんだけど、今日は珍しくちゃんとした理由があった。
ま、その理由ってのは単純で他クラスの奴らが英語のテストがあるやらなんやら。
授業日程がクラスによってまばらだから、今日の俺には英語のテストなんて無縁ってワケ。


うちのクラスにサッカー部は俺一人しか居ないから鼻歌交じりに呑気に教室へ戻った。最近のマイブームはミスチル


教室を目前にして気付いたんだけど、他のクラスは扉もその先に見える窓も全開でカーテンもなびいてるってのにうちのクラスだけ締め切られてるんだ。


こんな真夏なのに?
暑いじゃん。あ、もしかしてクーラー付いてる?


と胸に期待を膨らませつつ勢い良く後方扉を開けた。


でもそこに待っていたのは涼しい風でもなんでもなくて、
教室の奥の窓際の席に座ってる一人の"女子"だった。


"その子"は勉強してるみたいだったけど、それよりも先に蒸し暑い教室が体感的に気になっちゃって、
あっつ!と思わず声に出してしまった。
イヤホンをしてるのか無視してるのか知らないけど"その子"は俺の方に見向きもしなかった。集中を欠かなかったなら良かった。と変な気遣いをしてしまう。


俺の席は廊下側の一番後ろ。
扉を開けてすぐのとこ。
机を教室の端っこ、廊下側にめいいっぱい寄せてるから、よくクラスのやつが後ろ扉を開けた時に椅子に当たってびっくりする。
ちょっと離せばいいだけの話なんだけど、なんかさ、あるじゃん。そーゆーの。端っこに行きたい願望みたいなさ。


机に荷物を置いてまず窓際に向かった。
"その子"に話しかけに行ったとかそんなんじゃなくて、窓を開けたかったんだ。とにかく暑いんだよ。特に今日なんて、朝早くから太陽かんかん照りだったし、そんな中窓も開けないのはバカのやることだね。


てか、そもそもクーラー付けてよ先生。なんで今時扇風機しかないんだよ。しかもボロっちいやつ。田舎だからか?


窓の方に歩いて行っても"あいつ"は本当に俺に気付いてないみたいに関心がないし、ずっと机上と向き合ってる。
さっきは声を出すのもアレかなって思ったんだけど、なんか急に悔しくなって、机程度に負けた気がして、ちょっとくらい見向きして欲しいなっていう、よくわかんない末っ子特有のかまってちゃん気質が出たのか知らないけど、あっちー、あっちー、って聞こえるように独り言を言った。
でも、まだこちらに反応は無い。


全然反応がない事、一度気になっちゃうと変に意識しちゃって、謎の意地が生まれてさ。このままだと癪に触るからいっそのこと、って考えた俺は、一番こいつから近い、しかも目線に入る位置の窓から開けようとしてみた。くだらねー、って思う自分と意地を張る自分が2人いて、どうやら後者が勝ったらしい。


あ、そうそう、"こいつ"の席は窓際の後ろから二番目。
で、俺の開けようとした窓は後ろから三つ目の"こいつ"の左斜め前のとこ。
その夢中の机の前を通るから流石に見るでしょ。


まるで、俺は"あんた"なんて眼中にないですよ。ってアピールをしつつ、目もくれずに"こいつ"の机の前を通って窓を開けた。


夏の朝の風がビューっと吹き込んで、空気をばっと入れ替える。生温いし少しジメっとしてて、全くもって涼しい訳では無いけれど、教室の中の蒸し暑い感じよりかはマシに思えた。目に入った綺麗にまとめてあるカーテンは束になって少し揺れていた。


振り返ると目の前に座っていた"あいつ"がやっとこっちを向いていたんだ。ふっ、作戦通り!と思ったのも束の間、すぐに別の感情が俺を襲った。
そう、驚きが勝ったんだ。


風に揺れるポニーテール。透き通る瞳。見たまんまぷるぷるで、滑らかな曲線を描く唇。
絵に描いたような美人だった。びっくりしたよ。
こんなヤツクラスに居たっけ…と頭の中を巡らせたけど、浮かばない。そもそもあんまし女子と話さないからな…。


"こいつ"の事をまじまじと見ながらそんな事を考えてたら、目が合ってる事に気付くのが遅れてさ、このままだとすげー見つめてくる変なヤツって思われそうだったから、なんか、言葉を切り出さなきゃって必死になって、


『教室暑くない?』


なんて、自分の行動を裏付ける事を言ってみた。


「う〜ん…確かに。言われたら暑いかも。笑」


俺と"こいつ"の初めての会話。当たり障り無いだろ。まあでも、こーゆーのが実際一番良いんだ。多分。


『だよな!教室入ったら窓締め切ってるからさ、灼熱地獄だわあれは』
「ごめんなさい、私が朝来た時は暑くなかったから」
『いやいいんだけどさ』


ポニーテールにしてるから少し見えたうなじに一滴の汗が見えたから、なんだ、やっぱ暑いんじゃんって心の中で思ったけど黙っておいた。キモいし。
俺もこれ以上特に言う事が無かったし、"こいつ"も何も言わないから、沈黙が続いてさ、それに耐え切れなくて、なんかきまりも悪くなってこのままその場を離れた。


俺が自席の方に戻って、友達来るまで寝ようと机に突っ伏したくらいで、クラスの女子が何人か同時に入ってきて「あっ、ゆうか、おはよー」って言ったんだ。そしたら"あいつ"の声で
「おはよう〜」
ってレスポンスが返ってきてたから、"あいつ"の名前は"ゆうか"って言うんだって分かった。
そして、"あいつ"はさっき俺を無視したんだなって事も分かった。


なんでだ。


ムカつく。

 

 


土日を挟んで月曜になった。土日は他校との練習試合で大忙しだったから今日の朝練は無しになっていた。

__普通なら負けた悔しさでより一層練習に精を出すと思うんだけどな、こーゆー所だよなぁウチが弱いのって。ま、楽しいから良いんだけどさ。


なんだけど、俺、てっきり朝練があると思ってさ、早く学校に行っちゃったんだよ。そしたら誰も居ないじゃん。そこでやっと気付いて、うわーやっちまった。って後悔しながら教室に向かったんだ。


そしたら、またいるんだ。"あいつ"が一人で。

 


今度は窓は開いていた。教室の前の方の三つ。カーテンも開かれていたから日差しはイイ感じに遮られていた。暑い事に変わりはないんだけど。
また"あいつ"は一人で勉強していた。風が吹いてカーテンが揺れる音をBGMにでもしてんのかな。わかんね。


ふとこの間の事を思い出した。そうだ!"あいつ"は俺を無視してた!
無視って言ったらタチが悪いけど、でも反応してくれなかったんだよな、絶対に聞こえてたはずなのに、私には関係ないよねっていう感じでさ。
理不尽なのは分かってるけどさ、なんだかムカついてきて、…いやムカついてんのかな?
とにかく、なんとか俺の存在を認めさせてやりたくて、馬鹿の一つ覚えみたいに"あいつ"の方へ歩いて行った。
最初、邪魔しなくて良かったって変な気遣いをしていた俺は何処に行っちゃったんだろうな。


"あいつ"、今日はケッコーすぐに気付いた。向かってくる俺を認めて驚いたように少し目を見張っていた。でもその目はすぐに戻って、誰がどう見ても人の良さそうな顔をしてきた。ジッと目を離さない。スゲー見られる。なんでこんな見てくるんだろ。確か前もそうだったよな、でも俺も人の事言えないか。


横に立って上から見下ろした。まだ目は合ってる。でも無言。一言も話さない。側から見たら結構おかしい図だよなこれ。でも嫌じゃない。嫌じゃない無言なんだ。
"こいつ"の目をずっと見ていると瞳の奥深くに吸い込まれそうになった。広いんだよなんか。上手く言えないけどさ、まん丸い黒目の奥が、透き通ってて、キラキラしてて、バッと広がってるんだ。例えるならなんだろ。海とか、雄大な大地とか。雲一つない淡い水色の空とか?
今日もポニーテールをしている。正直可愛かった。
やっぱ美人なんだな、ちょっといけ好かないけど。


「おはよう」
俺が何も言わないから少し困ったようにあっちから話しかけてきた。ニコッと笑う。作り笑いには見えない。あと、笑うと頰の肉が膨らむタイプらしい。
『おう』
と軽く首を動かし返す。何を話すか決めてなかった。継ぐ言葉を探していると
「どうかしたの?」
顔を傾け優しい物腰で訊かれた。微かにポニーテールの髪が揺れた。凄くサラサラしてる。
『別に。なーにしてんのかなぁってさ』
ちょいとぶっきらぼうになった。ヤな奴だな俺。反省はしてるんだけど、身体が勝手にこうなっちゃうんだよな。
「ん?宿題だよ。昨日の夜やろうと思ってたんだけどさっぱりで。笑」
『そんなムズいの?』
「ううん、そうじゃなくてね、お家帰って気付いたらソファで寝ちゃってて…笑」


なんだ、意外と普通なんだな。最初から感じてた、俺とか周りの奴とはちょっと違う雰囲気。品があって真面目で、マイナスイオン出てるみたいな、そんなオーラ。

 

 

 

と、ここで終わっていました。

また書きたいですね。ミネラルでした。